【鼻を使って知能検査に挑むゾウ】
ゾウは、大きな耳よりも鼻に頼って食物を探すという研究結果が発表された。
ゾウは鋭い聴覚と嗅覚の持ち主として知られ、両感覚は日常生活で中心的な役割を果たす。
だが、それぞれが日々の行動においてどれほど重要であるかは、今まで知られてこなかった。
「我々の知る限り、ゾウが基本的知能検査で嗅覚を使用することが初めて明らかになった」と、研究を率いたケンブリッジ大学の動物行動学者ジョシュア・プロトニク(Joshua Plotnik)氏は語る。
◆食物知能テスト
研究では、まず7頭のアジアゾウに、エサの入ったバケツと空のバケツから一方を選ばせた。猿や犬、鳥類など、動物の知能を計る標準的な“場所当て”テストだ。
ゾウには、蓋をしたバケツを揺らした音で、中にヒマワリの種が入っているかどうかを判断するためのヒントが与えられる。この第一テストでは、食物が入っているバケツを当てるゾウの確率は、偶然の場合と変わらなかった。
第二のテストでは、ゾウは先に、1つは空、もう1つは食物の入った2つのバケツのうち、一方の蓋をあけて臭いを嗅ぐことが許された。
ゾウは、臭いを嗅いだバケツか、嗅いでいない未知のバケツを選ばなければならない。先に臭いのしない空のバケツを嗅いでいたゾウは、必ずそのバケツを避け、もう一方の未知のバケツを選んだ。
これは、ゾウが意思決定プロセスの一部として臭いを利用することを示している。食物の臭いがしなかったバケツを覚えていて、それとは別のバケツを選んでいたことになり。
◆驚きの嗅覚
ゾウは音声による交信に優れ、食物探しにも聴覚を使うだろうと安易に想像できるため、この結果に研究者たちは驚いた。
「(野生環境では)ゾウは食物探しにおそらく聴覚を使っていないのだが、音のヒントのみが与えられた場合には食物を見つけることができると考えていた」とプロトニク氏は話す。
この発見には、他のレベルについても重要な示唆が含まれている。例えば、ゾウが周辺環境とどのように関わっているかに関する理解を深められるだろう。
「この調査で、ゾウの意思決定プロセスにおいて、他の動物と比べ嗅覚がより重要な役割を演じているらしいとわかる。また、今後のゾウの知能研究にも重要な示唆を含んでいる」とプロトニク氏は話す。
さらに食糧をめぐる人間とゾウとの対立を避けるための貴重なヒントを与えるかもしれない。「ゾウが好みの農作物をとのように見つけるかがわかれば、作物が狙われないように臭いを遮断する方法を考えることができる。」
今回の結果はゾウだけでなく、他の動物についても、より適切な動物行動実験を計画する際に大いに生かされるだろう、と研究に参加していない専門家から声が上がっている。
「ずっと長い間、我々は人間にわかりやすい刺激を使って、色々な動物をテストしてきた」と、アトランタにあるエモリー大学の霊長類学者フランス・デ・ワール(Frans de Waal)氏は説明する。「人間とは異なる動物に不利な条件を押し付け、思わしくない結果が出ると、その動物は人間より能力が低いと見なしてしまうこともあった。」
つまり、今後の動物行動研究では、まず対象の動物種に固有の能力を見極めることが焦点となる。
イェール大学の進化心理学者ローリー・サントス(laurie Santos)氏は、今回の研究は「これまでの(動物の)認識テストがどれほど霊長類中心だったかを示している」と述べる。「ゾウの認識を本当に理解しようとするなら、視覚・聴覚中心の枠組みから出て考え直す必要がある。」
この研究論文は「Animal Behavior」誌の2月号に掲載されている。
文=Karl Gruber


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